本が出ました:『タスク・ベースの英語指導―TBLTの理解と実践』

もうだいぶ出版してから時間が経ちましたが,私が執筆者に加わっている本が出ました。

タスク・ベースの英語指導―TBLTの理解と実践』大修館書店

私は以下の2つの章を書きました。

  • 第2章 タスク・ベースの言語指導と認知のメカニズム—第二言語の学習を促す心理的要因
  • 第3章 タスク・ベースの言語指導と教育思想—社会における教育としてのTBLT

第2章では,第二言語習得研究にもとづいて,どんな背景でTBLTが提唱され,どういう実験結果に基づいて何が<効果的>と言われているかについてまとめました。

その上で第3章で,教授法選択はそういうミクロな視点だけでなくマクロな視点から考えることも必要,という感じで半ば自分で書いた第2章にブレーキをかけるような章を執筆しています。主に,経験主義的(pragmatism)な教育思想と批判的応用言語学の観点からTBLTを考察しています。特に英語教育論でありがちな「経験を通して学ぶと記憶に残りやすい」というレベルの考察から一歩踏み込んで論じることができたと思います。

まだまだ浅学な私にこの大切な章を書かせるのは大変勇気のある決断だったと思います。お声がけくださった編者の松村昌紀先生に心から感謝します。

ところで。

この第2章と第3章,まったくテイストの違う内容だったからか,どちらに興味を持つかが人によって全く異なるようです。第2章に興味があるといってくださった方にとっては第3章は「小難しくてよくわからんかった」という感想が多く,第3章を評価してくださった方は第2章についてはだいたいノーコメントでした。私としては第2章に興味があるような人にこそ第3章を読んで頂きたいと思っていたのですが,そうなるかどうかは執筆者の腕に依存するもの。・・・それほど興味持っていないものを読ませるスキルっていうのはまだなかなか。これからの課題です。

 

 

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目標の設定と,そこへアプローチする方法の設定:5ラウンドシステムのレビューから

亘理先生が以前,私の仕事のうちのいくつか(高校の授業見に行ってコメントしたり,高校生のデータ取って分析したり)に関連するかもしれない,って紹介してくれた以下の本について:

金谷 憲ほか (2017).『英語運用力が伸びる5ラウンドシステムの英語授業』大修館書店.

5ラウンドシステムは教科書全体を何度も周回することでインプット量を増やし,最終ラウンドでは教科書本文のリテリングができるようになるという指導法だそう。

自分の考え方との違いについてメモしつつ興味深く読んで考え,久々にブログ書こうかなと思っていたら先生がブログにレビューを上げていたので,その劣化版みたいなのを公開するのも忍びないと思い一回消したけど,些末かもしれない点でも気になった部分に焦点を絞って改めていくつか言及してみようと思う。

◆(単元?サイクル?)目標について

全体的な流れは「本文内容理解(->音と文字の一致)->音読->穴あき音読->リテリング」というフレームワークに沿って進む。ラウンドとは別に毎授業15分ほど「ウォームアップ」としてさまざまな言語課題に取り組む。それぞれのラウンドの目標はCan-Doとも対応している(p. 104-)。

私が今回取り上げたい観点のひとつは,最終ラウンドに位置するリテリングについてである。学年なり単元なりで達成してほしい目標があって,それに対してどうアプローチするかと考える際に,この場合は行動的な目標がいつもリテリングになる。Can-Doはむしろそれに合わせて,リテリングを通じてできるようになることを想定して設定されているようにも感じる。

p.108からはさまざまなパフォーマンステストが紹介されていて,評価方法が必ずしもリテリングではないことはわかる。そうなると,評価と授業内容の一貫性について以下のことが問題になる。

◆目標とそこに対するアプローチという考え方

リテリング以外の評価方法に対してアプローチしているのは「ウォームアップ」として位置づけられているリテリング以外の言語活動である。ただこの本を読んだ限りでは,ウォームアップ活動はリテリングに向かうラウンドの中で得た表現を「使ってみる」くらいの位置づけに見え,必ずしも評価方法にアプローチする形で組織だったものであるようには思えない*1。つまり「ウォームアップ」に位置する言語活動と評価に関しては,身に着けてほしい能力がありそれを日常的な授業でどのようにサポートしながら身に着けさせるかという観点ではなく,授業でそういった活動として取り扱ったからそれに関連するパフォーマンステストをやろう,という逆のベクトルが仮定されている(まずもって「ウォームアップ」という名前からその雰囲気が滲み出ている)。このことは,達成評価が「ウォームアップ」での活動が前提となっているのにもかかわらず,単元(サイクル?)目標にはいつもリテリングが鎮座していることと矛盾する。この矛盾を解消しようとすると,最終サイクルにリテリング以外の活動を用意してそれに向けてラウンド前半の内容自体を再考するか,「ウォームアップ」自体を目標に準拠させて組織化したりすることが必要になる。

◆目標に不足ないアプローチになっているか

次に気になるのはその目標を達成するための手前のラウンドの内容だった。先にも述べたように,全体的な流れは「本文内容理解(->音と文字の一致)->音読->穴あき音読->リテリング」であって,この本にある実践はこのフレームワークに忠実で,意味理解の仕方や音読のバリエーションが先生によって多少異なるといった感じに見える。

最初に読んだ感想としては率直に「間にあるいろんな音読だいぶキツくね?」っていう感じだったが,それは亘理先生のレビューにもっと洗練された形で触れられていたので,とりあえずそれ自体にそんなに深入りしないでおく。ただ中学校は音と文字の一致は(あまり語られない気もするが)大きな難関だろうし,こういったボトムアップ的なトレーニングを多めにする必要は,学校によってその重みづけは異なれど多分にあると思う。一方で違う観点から問題提起したいのは,その多種多様な音読関連活動が,(この場合リテリングという)目標にとって不足ないアプローチとなっているかということである。換言すると,リテリングに必要な技能が(やり方が多様であるとはいえ)音読のみによって補えるとはちょっと思えない。もちろんこれは,この本で実践を紹介している先生たちの報告を疑ってるわけではない。そうではなくここには,書いてあるレシピ通りに実施した結果空中分解してしまう危惧と,ちょっと工夫するともっとよくなるんじゃないかという期待がある。

リテリングは,内容が適切に理解できていること,そしてその内容を理解・説明するに足る語彙,そして文を構築する能力が必要なのは言うまでもない。そしてなにより,テキストの要点を捉える必要がある。これらの能力を身に着けるために必要な足場掛けのような課題が途中のラウンドに必要となれば,それは音読に縛られる必要はないし,縛られてはいけないはずである。今のところ文を構築する訓練(≠文法指導)は「ウォームアップ」の例で少し紹介されているくらい*2で,その点を穴あき音読のみで対応するのは難しいだろうし,文の要点を掴んだりキーワードを抽出したりするような練習がラウンドの途中にあるわけでもない*3。また例えばシャドウイングはリテリングに必要な能力を身に着ける訓練では必ずしもないと思うが,「音読のバリエーション」として無批判に突っ込まれてる気がしなくもない。

◆まとめ

つまりまとめると,「ウォームアップ」にある言語活動ありきでパフォーマンステストを作成しているので,「ウォームアップ」自体が目標に準拠した課題群であるような組織化をするか,ラウンドと有機的に関連させるためのもっと突っ込んだ議論が必要ということ,ラウンドの最後がなぜリテリングなのかよく考える必要があるということ,またリテリングの部分を再考すると,現在それに合わせているように見えるCan-Doの記述も変わってくる(むしろCan-Doが先にあってそこから逆算的に「達成すべき課題」が導出されるという,普通のカリキュラム作成手順を踏むことになる)し,そうなるとラウンドの間にある音読群も不可避的に再考を迫られるだろうということ。このようになったときにそれを「5ラウンドシステム」と呼べるかどうかはわからないけれども・・・。

 


*1  おそらくこの本で実践を報告された先生は,このラウンドとラウンド外の言語活動の有機的関連を教師の直観で上手くやっておられたのではないかと思う。そうでないとこの下位課題で目標課題のリテリングを行えるようになるのはかなり無理があると感じる。

*2  ここでもやはり,ラウンド外の言語活動とラウンドがどう有機的にかかわるかの考察が必要でしょう(むしろそこが一番大切じゃないかと私は思う)。安易に導入してこの関連が空中分解してしまうと,この本で報告されているような結果を出すのは難しい(くらいならまだよくて,最悪の場合,ボトムアップ訓練の苦行に伴う苦痛と「不達成感」だけが残ってしまうかもしれない)。

*3 リテリングにこだわらなければ,一年生の頃なんかもう少し目標をハードル低い達成課題に設定して,2年・3年とリテリングを含むような徐々に難しい達成課題に挑戦させていけば,間のラウンドにあれもこれも突っ込む必要はなくなるだろう。2年生で経験する5ラウンドは,1年生のラウンドを経験した上でのものなのだから。